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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)3957号 判決

東京都民銀行

事実

原告株式会社東京都民銀行は昭和二八年八月二〇日に手形貸付の方法によつて金四〇万円を被告会社に貸しつけたが、被告会社は同年一一月一七日の支払期日を過ぎるも右債務中元金二〇四、〇二八円を支払つたのみでその余の支払をしないから、原告銀行は被告会社に対し残額金一九五、九七二円及びこれに対する完済に至るまで金一〇〇円につき一日金四銭の割合による損害金の支払を求める。なお被告東海鉱業化成株式会社は、昭和二八年八月の貸付当時は日本無機化学株式会社と称していたが、昭和二九年五月二九日その商号を藤田鉱業化学株式会社と変更し、更に昭和三〇年三月二六日東海鉱業化成株式会社と変更して今日に至つたものであると述べた。

被告東海鉱業化成株式会社は、当時の代表者藤田一郎は既にその代表取締役の地位を辞任したため、本訴については被告会社の代表者たり得ないと述べた。

理由

被告会社は、被告会社代表者藤田一郎は既に被告会社の代表取締役の地位を辞任したから、同人は本件訴訟についての被告会社の代表者たることはできないと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はないのみならず、およそ代表取締役の氏名は登記事項に属し、代表取締役が辞任したときはこれを登記し、その登記及び公告の後でなければ会社は右の辞任をもつて善意の第三者に対抗することができないところであるが、本件訴訟記録中の登記事項についての証明書によると、被告会社の代表取締役としては藤田一郎、三好康之の氏名が登記されており、かつ共同代表に関する定めのないこと認めることができる。他方本件訴状が昭和三二年六月一日に右藤田一郎に送達され、本件口頭弁論期日が同年七月九日に終結していることは何れも本件記録上明らかであるから、仮りに前記藤田一郎が被告会社の代表取締役を事実上辞任していたとしても、原告銀行がこの点について悪意であることを認めるに足る証拠はないから、被告会社は善意の原告銀行に対し、右藤田が本件訴訟において被告会社を代表する権限を有していないと主張することはできないものといわなければならない。

よつて被告会社の主張は理由がなく、原告銀行の本訴請求は全部正当であるとしてこれを認容した。

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